続:雨の中の庭(肉ss)

先日アップした「雨の中の庭」のリンク作品。
ウォーズが出て行くまで、ロビンと話した内容です(´∀`)。

暗いわバッドエンドだわ、ロビン悪役だわなので、追記で上げておきます。


このロビンはアリサを愛しているけど、ウォーズもすごく大事で(プラトニック)ウォーズがケビンのものになるのなんて絶対許せない、と思ってるという設定です。



雨はしとしとと降り続いている。
ウォーズが泊まっている部屋が音高くノックされたのは、夜がまだ暗く明けない時間のうちだった。
「……はい」
聞き間違いかと思いつつウォーズはドアを開けた。
そこに立っていたのは、意外な人物だった。
「ロビン? どうしたんだ? こんな夜に」
邸宅の主が夜に誰かの部屋を訪れる。
例えかつての弟子で男である自分の部屋だとしても、どこか邪なものを感じ取る人間がいるかもしれない。
「今、着替えるから」
ウォーズはてっきり自分が外に連れ出されるのだと思い込んだ。
だが、ロビンは無言で部屋に入り込み、後ろ手で鍵を閉めた。
「お前に確認したいことがある」
静かな声だったが有無を言わせない響きがあった。
ウォーズは寝巻きのままで頷いた。
ロビンも寝巻きにガウンを羽織っただけである。
「今日のパーティーで少し抜けていたようだが……」
「ああ」
ウォーズはほっとした様子で息をついた。
その件についてか。
こんな時間にロビンが訪ねてくるのだから余程の大事かと思っていたが、自分がパーティーを抜け出したことを言及しにきただけかと思うと安心した。「悪かった」
「ちょっと飲みすぎて、頭を冷やしに行ってたんだ。途中で雨になったからすぐに戻ったつもりだったが――長かったか?」
確かに今夜自分はロビンと話をしていない。
久しぶりに会ったわけだから、ウォーズとて積もる話はあったのだけれど、来賓やアリサのエスコートしているロビンを見ていたら、どうにも気が引けてしまったのだ。
ウォーズは明るい口調で、しかし心を込めて謝った。
だが、ロビンの暗い雰囲気をまとったままだった。「――お前のことではない」
「ケビンと一緒ではなかったのか?」
しまった。とウォーズは心の中で言った。
確かに今夜はケビンの誕生日パーティーだったのだ。
それを抜け出したケビンを咎めず、送り届けようともしなかった。
ウォーズは心底申し訳ない気持ちになった。
謝ろうと口を開きかけた時、ロビンはすがるように言った。「事実なのか?」
「お前たちを中庭で見た者がいるんだ……名前は伏せておくが……そうなのか」
「あ、……ああ」
ロビンの様子が少し奇妙だった。
確かに自分たちはパーティーを抜け出して中庭で転がっていた。
しかしそのことがロビンをここまで焦燥させることになるとは思えない。
だがウォーズは包み隠さず、本当のことをきっぱりと言った。「確かにそうだ。中庭にいたんだ。」
「パーティーの主役を連れ出して悪かった、申し訳ない。なんなら、また折を見て俺から来賓の方にも話をするよ」
だが、ロビンはその言葉に答えずに呻くように息を吐いた。
「ロビン?」
思いつめているのが鉄のマスクごしにも分かる。ウォーズは心配してロビンの名を呼んだ。
ロビンは意を決したように顔を上げてウォーズの目を見た。「ウォーズ……」
「もう、ケビンには会わないでくれるか?」
「は?」
ウォーズは大きな声を出して聞き返した。確かに自分はかなり常識外れなことをしただろう。
だからと言ってそれがそこまで極端な結果になるとは思えない。
「どうしたんだ? いきなり。何の理由があってそんな」
ウォーズは強い調子でロビンに詰め寄る。
ロビンは苦しそうに答えた。
「お前たちを見た者は、お前たちの雰囲気がただならない様子だったと言っている」
ウォーズは息を呑んだ。
ロビンの考えていることに行き当たり頬が熱くなった。
確かにケビンと抱き合って、将来の約束をした。
だが、あれは、そんないかがわしいことではない。
お互いを大事に思い、一緒に居ることを誓うだけのものだ。
それも、ケビンが大人になる時間を考慮において。
ウォーズはケビンが大人になるそのときまでの精神的な支えでありたいと思っただけだった。
もしも大人になったケビンが自分ではない人間を選んでもそれは仕方ないことだとさえ思っていた。
ただ、あの月の下でケビンが自分にかけてくれた言葉。
それが泣きそうなほど嬉しかっただけだ。
ケビンを汚そうなどと思ったことは露ほどもない。
「バカな」
ウォーズは首を振った。
「いや、確かに……抱き合ったりはしていたが、それは別にやましいことをしていたわけじゃない! 誓って言える!!」
「当たり前だ」
何故かウォーズの言葉にロビンが同調した。
「お前がそのようなふしだらな男である筈がない」
ウォーズはほっとしたようにロビンを見た。だがロビンは耐え難い言葉を続ける。
「だが、ケビンは違う。あれは男の目でお前を見ている」
「おい! 今日8つになった息子のことを言ってるんだろうな?」
ウォーズが軽く嗜める。
だが、ロビンは真剣だった。
「前から薄々気づいていた……ケビンがお前を見る時の目……あれはまるで」
「そんな風に言うな!」
ウォーズは部屋が響くほどの声で言った。言ってしばらく黙った。
ケビンの言葉を思い出す。
あの言葉の真剣さをどう伝えればいいのか分からなかった。
言葉なんかじゃうまく伝わらない。
けれど今伝えなくてはいけなかった。
「ロビン、聞いてくれ? ケビンが俺に言ってくれたことは――」
「ウォーズ、ケビンはこの家を継ぐ義務があるんだ」
ウォーズは言葉を切った。
続けることなんてできなかった。
「たとえお前たちの気持ちがどれほど純粋でも、真剣でも、あの子は正式なロビン王朝の跡取りだ。妻を娶り、この家を栄えさせる義務があるんだ」
「……」
「イギリスを離れることもできまい」
ウォーズは拳を握ってうな垂れた。
わかっていたことじゃないか。
心の中でそう言った。けれど、何故自分がこんなにも傷ついているのか分からなかった。
ケビンの心の支えで居られればそれでいいと思っていた。ケビンが美しい青年に成長した時に、隣で笑えなくてもいいと思っていた。
だが、少しは何かを期待していたのだろうか。
「あさましいな、俺は。ケビンに釣り合うはずもないのに」
ウォーズはぽつりと呟き、ロビンに背を向けて寝巻きを解いた。
「出て行くよ。もう、ここにも来ない」
「ウォーズ……私は……」
「分かってる。あんたが俺にそう言うの当然だ」
ウォーズは寂しそうに微笑むと服を着替えて少ない荷物を手に持った。
「酔っていてよく覚えていないが……あんたの息子をちょっとからかった……認める。もう、二度と彼に会わない」
「……そういうことにしていいのだな?」
「そういうことも何も、それこそが事実だ」
ウォーズそう言って部屋を出ようとした。
その歩みが止まる。ロビンを振り返り、切ない口調で言った。「これだけは、伝えてもらってもいいだろうか?」
「ケビンに……ありがとうと、君の言ってくれたことを忘れないと。それだけでいいから」
「わかった」
ロビンの言葉に、ウォーズは少し目を押さえて頷いた。夜の闇の中に、ドアが開き、閉じる音とウォーズの足音が響いた。
ロビンはウォーズが部屋を出て、屋敷を出て行くまで、ずっと窓辺でその背中を見守っていた。

けど、結局ウォーズの言葉が伝わることはなかった。

end





2007年10月01日 SS(29) トラックバック(-) コメント(-)