雨の中の庭(肉SS)
本館でも同じようなタイトル、シチュで書いたけど、まあちょっとリライトというか(笑)せっかくネカフェで書いてるのだからブログ更新してみましま。
プラトニックなロビウォ前提のケビウォSSです。
追記でちょっと後味の悪い続きを書いてますのでハッピーエンド好きな方はここまでやめておいた方が吉。
パーティーは大機嫌いだ。
ケビンは笑い声や賛辞や祝辞も声が交じり合うホールを抜け出して必死に走った。
今日は自分の8歳の誕生日のパーティーだった。
だからあの馬鹿げた高い台の上で来客全員に向けた挨拶を行い、ロビン家の恥じないような立派な口上を披露した。
まだ、ケビンは幼いながらも、訪れたありとあらゆる人間に何か一言声をかけてまわらなければならないことを知っていた。絶望的に思う。
もう何回もこれをやっているんだもんな。
もう何回もこれをやり続けるんだろうな。ダディみたいに。
だが、ケビンはこっそりと屋敷を抜けて中庭に走った。
先ほど来賓の質問に適当に答えている時。視界の隅をするりと抜ける黒い影を確かに見た。
その瞬間にまるで何か体の中で熱い電気が走ったみたいに感じて、気がついたら走り出していた。
走った先は中庭だった。中庭に接待の席やテーブルが設けられていて、多くの来賓達が楽しそうに談笑している。
その笑い声はケビンをいらつかせた。
ウォーズさん。
ケビンは辺りを見回した。
満月が濡れる様な光を中庭に降り注いでいる。
けれど、その光がどこか届かないような場所に隠れてしまったようにウォーズの姿は消えた。
「ウォーズさん、どこ?」
ケビンはパニックになって思わず口に出した。
いや、そもそも来ていてくれたのだろうか。
自分の誕生日のパーティーには必ず出席してくれていたウォーズではあったが、最近の彼の忙しさはケビンも察するものがあった。
今年は無理かもしれない。
そう思っていただけに、あの馬鹿げたスピーチをしている最中に、壇上のからウォーズの姿をちらりと見たとき、ケビンは飛び上がりそうになった。
ウォーズにだけ向けてスピーチをした。
けれど、今、彼はまるで夜の闇に溶けてしまったみたいに姿を消している。
「ウォーズさん!」
あれは夢か幻だったのだろうか。
自分があまりにも会いたいと渇望していたから、それで何か黒い服を着た別の人を見間違えたのだろうか。
ケビンの気持ちにも闇が宿る。
息が切れ、足を止めて、辺りをぐるりと見回す。
中庭のパーティー席もはるか向こうだ。
ケビンは中庭の最中央部のローズガーデンにまで走っていた。
いつの間にか、雨が降っていた。
それは霧のような細かい雨だった。
月の光は相も変わらず降り注ぎ、辺りはまるで水の密度だけを増したようになっている。
濃密な月の光の下で薔薇の香りが一段と増した。
ケビンは、ふっと、風が動いた気配を感じた。
「ケビン?」
呼ぶ声の主に、ケビンは確認もせずに飛びついた。
間違えようもないほど好きな声だった。
「どうしたんだ? こんなところで?」
ウォーズは自分の胸に飛び込んで来たケビンに問いながら、それでもケビンを抱きしめた。
ケビンはぐすん、と一度大きく鼻を鳴らして言った。
「ウォーズさんを探してたんだよ」
ウォーズは何かを言いよどんだが、ケビンの頭を撫でながらやさしい口調で言った。「そうだったのか」
「でも、パーティーの主役がこんなところにいるべきじゃないよ」
「パーティーなんて大嫌いだ!」
ケビンは反射的に言い返していた。思ったよりも強い口調になり、自分でもしまったと思った。
ウォーズは黙り込んでいる。
ケビンは何か弁解しよとしたが、やめた。
これからまたあの退屈な集まりに戻るのだとしても、きっとウォーズと手をつないであの場に行ける。
それだけで十分だった。
だが今夜のウォーズは違っていた。
ケビンを抱きしめたまま、芝生の上にころりと寝転んだ。
ケビンは混乱して瞬きをした。
密着した部分は衣服越しだというのにウォーズの筋肉の隆起をしっかりと感じた。
ケビンは体の芯がどくどくと熱くなるのを感じた。
「気が合うな」
ウォーズは笑いながら言った。
「俺もパーティーは大嫌いだ」
ケビンはようやくウォーズが尋常でなく酒臭いことに気づいた。おそらく酔いを醒ましにここまで来ていたのだろう。
でも、どうしてこんなにお酒を飲んでたんだろう。
ケビンは不思議に思ったが、すぐにどうでもよくなった。
アルコールの混じる息を吐いてもウォーズはウォーズだ。
そして、今のウォーズはパーティーを抜け出したケビンを咎めずに一緒に笑ってくれる。
素面ならこうはいかない。
ケビンはウォーズの体に体を重ねたま静かに会話していた。
それはケビンにとってとても素敵な時間だった。
「ウォーズさんはどうしてここに来てたの?」
「俺は話が下手だからな……会話しなくてもいいように酒ばかり飲んでたら頭が熱くなってきたんだよ。だから冷ましにきた」
「僕も真似しようかな。そしたら、あのスピーチしなくていいし」
「君はそんなことする必要ないさ。堂々として素晴らしかった。それに未成年だろ?」
「あんな馬鹿なこと本当はしたくないんだ」
「……」
「このパーティーもだ」
状況がケビンを大胆にした。普段絶対に口に出さない己の意見をウォーズに言う。
そしてウォーズなら分かってくれるという確信があった。
「こんなこと続けていくの、本当はもう嫌なんだ。僕は自分の力だけを信じて強くなりたい。いろいろなことに縛られたくないんだ」
「確かに今の君の言葉の方がいいスピーチだ」
ウォーズはケビンを胸に乗せたままで抱きしめた。「君はあまりにも大きなものの下に生まれて来てしまったからな」
「けど、俺には分かるよ。君は近いうちに君を縛るものよりも大きな力を持つ」
「……本当に?」
「ああ。今はその途中だから苦しいんだ。だけど君は最後にはきっと自分自身を誇らしく思えるだろうな」
「どうしてそんなことが分かるの?」
「俺は君よりもはるかに年上だからな」
「年をとれば自分が誇らしく思えるの?」
ウォーズはそこで言葉を詰まらせた。「いや」
「そうとも言えない。それは生まれ持った資質みたいなもんだ。君はすばらしい男に育つだろうが、俺は年をとってもまだ自分を未熟でどうしようない男だと思っている」
「ええ?」
ケビンが大きな声で聞き返した。
「ウォーズさんのどこが未熟なの?」
「未熟だよ」
ウォーズは鼻で笑った。その息は酒臭い。そしてしばしウォーズはケビンから目を逸らした。
「どうしようもない男だ。自分の気持ちに踏ん切りもつけられずにだらだらと」
それはケビンが聞いたことのないような不穏な空気を持つ声だった。
言葉の意味は正確にはわからなかった。
だがケビンはなぜか自分の両親のいずれか(あるいは両方が)ウォーズを傷つけているように思えた。
そしてウォーズの深酒の理由もなんとなく分かったような気がした。
ウォーズさんは、あの場所でダディといっしょに居たくなったのかもしれない。
それはひょっとしてマミィといっしょにいるダディに原因があるのかもしれない。
「でも僕はそんなウォーズさんが好きだよ」
ケビンははっきりと声に出して言った。
ウォーズは笑ってケビンに目を合わせた。「ありがとう」
「俺も君が大好きだ、ケビン」
ケビンはマスクの下で満面に微笑んだ。
そして、ウォーズがまだ酔っていることを知りながら、ずっと聞きたかったことを聞いた。
今のウォーズなら答えてくれるはずだった。
「僕とダディとどっちが好き?」
「――それは、」
ウォーズが言葉を切った。
横を向こうとするのを、ケビンは無理に自分の方を向かせる。
ウォーズにこんな失礼とも思えることをすること自体始めてだった。そのくらい興奮していた。
「僕ならウォーズさんに絶対寂しい思いなんてさせないよ? パーティーでも放っておいたりしない」
「……ケビン……」
「約束するよ。ずっとそばにいるよ? 僕はそれを守るよ。絶対に一人にしない」
「よせ……ケビン……」
ウォーズは聞きたくないように耳を押さえようとした。だがケビンはそれを許さなかった。
「愛してるよ?」
ウォーズは悲痛に顔を歪め、そして力なく手を芝生に落とした。「ああ……」
「君に……君に、そんなことを言われたら俺はどうしようもなくなるよ……」
ケビンはたまらずマスクごしではあったがウォーズにキスを落とした。
ウォーズはそっとケビンの背中に腕を回した。ケビンが顔を上げるとウォーズは聞いた。
「本当に俺をもう一人にしない?」
ケビンはその問いを自分がもらえる事がうれしくもあり、そして問いの意味を残酷にも感じた。
置いていたかれたことがあるんだろうなと思った。そしてそれに怒りを感じた。
「ずっと一緒だよ、ウォーズさん」
ケビンは強く答え、同じほど強くウォーズを抱きしめた。
まだ小さな手だが、ウォーズの言った通り、強く育つ自信があった。
そして腕の中の男を守る自信も。
「ケビン」
ウォーズが、今までケビンを呼ぶのと全く違った声音で呼んだ。
その甘さはケビンを痺れさせた。
「だったら俺はもう君のものだ」
雨はいつの間にか強くなっていた。
月は姿を隠し、お互いの衣服は濡れ、体温を奪いつつある。
けれど二人は、触れる部分から体を温めるように、きつくきつく抱き合っていた。
抱き合いながら二人は、指を絡め、永遠を誓った。
end
ケビンがようやくその異変に気づいたのは朝食の時だった。
普段は一族と同じテーブルを設けられるはずのウォーズの席が無くなっている。
ウォーズは前の晩、泣きながら擦り寄るケビンにやさしく言ってくれた。
わかったよ、ケビン。あと3日くらいは厄介になるから。
ウォーズと中庭で抱擁を交わし、将来を誓い合って一晩明け、ケビンは今までないほど気力が充実しているのを感じた。一刻も早くトレーニングを始めて力をつけたかった。
朝の目覚めは清清しく、すべてのものが美しく見えた。
今まではそんなことなかった。
同じことの繰り返しの日々に全てはくすんで見えていた。
それなのに、その素晴らしい日を与えてくれたウォーズはいなくなっている。
そして、誰もそのことについて口を出さない。
まるでウォーズなど初めからいなかったように振舞っている。
ケビンは朝食を運ぶメイドに聞いた。
「ウォーズさんの席は?」
メイドは何も言わず、朝食だけを運び、消えた。
執事長に目を向ける。彼は彫刻のように微動だにしない。
ケビンは母親を見た。彼女はさっと目を逸らした。
父親のロビンマスクだけは、朝食を何食わぬ顔でとっている。
「ダディ、ウォーズさんはどうしたの?」
声が震えているのを悟られたくはなかった。だが堪えられなかった。
「急用で帰った。もうイギリスには来ないそうだ」
視界が赤く染まったような気がした。ケビンは立ち上がって怒鳴っていた。「嘘だ!」
「ウォーズさんが僕に何も言わずに帰るわけない!! ウォーズさんに何したんだ?!」
その怒声に周りの人間全員がすくんだが、次の瞬間、アリサがテーブルに突っ伏して、わっと泣き崩れた。
ロビンはため息をついて言った。「お前はウォーズの不名誉を皆に今一度知らしめさせたいか?」
「不名誉だって?」
「昨夜お前がウォーズと中庭で居たのを見た人間が居る。ウォーズを詰問したら、お前を誘惑したことを認めた」
ケビンの時間が止まった。まるで、異国の言葉を聴かされた気分だった。
「酔って悪ふざけをしただけにすぎんとのことだが、悪質と判断した。もう、ウォーズはこの屋敷には入れん」
「ふざけるな!!! いいかげんなことを言うな」
ケビンは室内の人間を見回した。
「あの人がそんなことをする人に見えるか? どれくらいあの人がいい人なのか皆知ってるだろう?!」
メイドも執事も皆黙って俯いた。
アリサは号泣している。
「ならばお前がウォーズに挑んだか?」
「汚い言葉であの人を辱めるな!!」
「どちらにしろ、お前はもうウォーズには会えん。お前は将来この家に尽くすことだけを考えていればいい」
「あんたは頭がおかしい!!」
室内の緊張が増した。
「いや、あんただけじゃない! みんなおかしい!! どうして誰も間違いに気づいているのに何も言わないんだ?!」
「ケビン、そろそろ朝食を食べてしまいなさい。スケジュールに支障が出る。その無礼な口の利き方を正すのは午後にしよう」
「マミィも執事長もメイド長もみんなおかしい! 僕はこの家の人形じゃない! いや、人形でもよかった。もう僕は希望があったんだ。それをあんたたちがめちゃくちゃにしたんだ!!!」
アリサは泣きながら何かを叫んだ。メイドと執事長がアリサを室外へ引きずっていく。アリサの声が聞こえる。許して、ケビン。許して。
いつの間にか、室内は人が払われ、ケビンは真っ向からロビンと対面していた。
仮面の隙間から見えるロビンの目は怒りに血走っていた。「……私の息子であるということに感謝しろ……」
「私は問題はむしろ貴様にあったと思っている……私の弟子であり長年の友人であり、そして魂の伴侶であったウォーズを汚して……貴様がロビンの血を引いていなければ何度殺しても足りていない……」
同じほど怒りに狂った目でケビンが見つめ返す。
「あの人を深く傷つけて、しかも公衆の面前で辱めたくせによくそれが言える」
怒り狂った男達がしばし見詰め合った。
だが先にケビンが目を逸らして口を開いた。「僕は出て行く」
「一人で生きる。そしてウォーズさんを迎えに行く」
ロビンは鼻で笑った。「好きにするがいい」
「もう、私は貴様を息子とも思っていない。どこででもくたばれ。それが貴様にはお似合いだ」
ケビンは朝食にはいっさい手をつけずに部屋を出た。
廊下を歩いていると、執事長が何か声をかけてきたが無視した。
中庭を横切る。
二人、ずっと一緒で居るという誓いを立てた中庭。
ケビン薔薇の花を一輪手折ると、それを胸に挿し屋敷を出た。
行くあてなどどこにもなかった。
けれど、自分はどこででも生きていけるような気がした。
どんな劣悪な環境でも悪事に身を染めようとどうでもよかった。
強くさえなれれば。
自分の腕があの人を守れる強さを備えた頃にあの人を迎えに行く。
ケビンはぎゅっと拳を握り、生きていくための場所を探すために歩き出した。
end
